研究内容
本研究室では主に推進工学・燃焼工学の学問をベースとしてハイブリッドロケットの研究を中心として,優れたハイブリッドロケット用燃料の開発やその燃焼機構の解明,推進システムの提案と実際の小型ロケットとして飛翔実験を行う有効性の実証などを行っています.他にも新しい固体推進薬の開発と燃焼モデルの構築や酸化剤に関する基礎研究なども実施する基礎から応用にかけて幅広い活動を行っています.
ハイブリッドロケット燃焼実験
燃料後退速度測定(推力100N級,500N級,1500N級,5kN級燃焼実験)
ハイブリッドロケットは燃料にプラスチックを用いるため,高い安全性と低コストな推進システムとして注目を集めています.一方で,燃料の燃焼速度を意味する燃料後退速度が低く,大推力化が困難であるという欠点を抱えています.そこで,本研究室では,燃料後退速度を様々なサイズの燃焼器を用いて実際に燃焼させ,その特性を調査しています.
旋回流方式を用いた燃焼実験
酸化剤に旋回流を与えることで燃料後退速度が増加することが明らかとなっています.そこで,本研究室で開発中の低融点熱可塑性樹脂燃料に旋回を付与した際の燃料後退速度変化について研究を行っています.最終的には,最適な条件での推力制御や燃料を均一に燃やし切る技術などに応用していく予定です.
ガスハイブリッドロケット
ハイブリッドロケットの形態の一種として,燃料自身がガス化し酸化剤と混合して燃焼するガスハイブリッドがあります.本研究では,燃料に高エネルギー物質を用いて自らをガス化させ,同時に同じ燃焼器内に酸化剤を吹き込むダイレクトインジェクション型ガスハイブリッドロケットの提案とその実証を行っています.
二次元窓付き燃焼器を用いた燃焼実験
ハイブリッドロケットは現在,新たなロケット推進システムとして注目を集めています.安全性の高さや環境負荷の低さが挙げられる一方,複数の現象が混在しているためその詳細な燃焼メカニズムは未だ解っておりません.ハイブリッドロケットの燃料には,プラスチックなどの高分子材料が用いられており,熱により溶けて冷やすと固まるチョコレートのような性質を持つ熱可塑性樹脂と,熱を加えることで焼き固まるクッキーのような性質を持つ熱硬化性樹脂に分けられます.それぞれが燃焼する際のメカニズムは複雑であり未解明です.そこで,その燃焼メカニズムを明らかにするため,燃料の相変化,熱分解,また,酸化剤と燃料の混合・拡散・反応等を一つ一つ調査しています.
本研究室では,ハイブリッドロケット燃料の燃焼メカニズムの解明及びそのモデル化に向けて,超臨界状態における燃料の燃焼状況の観察及び計測を行い,燃料の燃焼速度である燃料後退速度の予測及び改善を最終目標に研究を行っています.本実験は燃料内部の相変化構造の解明と酸化剤との混合拡散状況を把握するため,観察窓付き燃焼器を用いて燃焼中の燃料内部の温度場計測・燃焼火炎の可視化,火炎の分光計測などを実施しています.また,燃焼に至るまでの燃料の熱分解モデルを提案するため熱分解現象により生じる発生ガスの測定も実施しています.
燃焼火炎の可視化,燃料内部の温度場計測
二次元窓付き燃焼器を用いてハイブリッドロケットが燃焼中の火炎を観察する実験を行っています.燃焼中は20気圧の高い圧力となるため火炎の可視化は難しい技術ですが,本研究室では綺麗な可視化映像の取得に成功,様々な燃料の火炎観察を行うことが可能です.同時に,燃料内部の線径25μmの熱電対を挿入し,燃焼中の燃料内部の温度場履歴の取得にも成功しています.これらの技術を組み合わせ,高温高圧環境で燃焼するハイブリッドロケット燃料の燃焼機構の解明を目指しています.
燃焼中の燃料内部の温度場計測
本研究室で開発中の低融点熱可塑性樹脂燃料と従来のハイブリッドロケット燃料の相構造の調査を目的として,燃料内部から火炎近傍までの温度場を直接計測および光学観測を行っています.直接計測では燃料内部に線径25μmの熱電対を埋め込み,燃料内部から火炎近傍までの温度場履歴の取得を行っています.光学観測では観察窓付き燃焼器を用いてハイブリッドロケット燃料の燃焼火炎を観察する実験を行っています.燃焼中は圧力が高く,燃焼火炎の可視化は難しい技術ですが,本研究室ではきれいな可視化映像の取得に成功しています.
熱分析・発生ガス分析
「ハイブリッドロケットの固体燃料はどのような現象を伴って燃焼するのか」を解明するためには,物質そのものが持つ性質,なかでも熱の応答に関する“熱的物性”を知ることが重要です.ここでは,分析化学の手法を用いて固体燃料の熱的物性を評価し,燃焼器内部の“燃焼メカニズム”の提案を行なっています.
火炎の輻射により加熱された固体燃料の表面では,融解や蒸発,熱分解といった現象が生じます.これらの状態変化を温度の関数として測定する熱分析装置にて温度の上昇に伴う熱量や重量変化の測定,同時にカメラによる直接観察により,色や見た目から固体燃料の変化を観察しています.さらに,熱分解によって生じた可燃性ガスの正体やその発生傾向を知るために,発生ガス分析の一手法である質量分析を用いてガス化した物質の質量数を測定し,加熱炉の加熱温度との相関を評価しています.当研究室では,急速加熱の環境とそこに要求される分析技術に特化した急速熱分解-質量分析装置(Py-IA/MS)を用いることで,ハイブリッドロケットの燃料表面で生じる熱分解反応の調査及び評価も行なっています.
小型ハイブリッドロケット打上実験
大学生らのプロジェクト実践教育を目的とした高度200m級ハイブリッドロケットの打上実験を千葉県御宿町で実施しています.打上げは洋上に浮かべたフロート式発射台から行われ,2019年3月に国内で初となる洋上発射実験に成功しています.
本研究で開発した低融点熱可塑性樹脂燃料(LT燃料)の実証実験として,高度5000m級ハイブリッドロケットの打上実験を2016年7月に伊豆大島にて実施しました.ロケットは超音速で飛翔し,23秒後に最高高度4889mに到達し,加速度環境下においてもLT燃料が正常に燃焼することを実証しました.
そのほか進行中の研究
ハイブリッドロケット用燃料の開発
- 機械的物性値及び熱物性値の測定
- 構造の成立性評価
- 急速加熱環境における熱分解生成物の測定
- 化学反応速度計算による燃焼シミュレーション
新しい固体推進薬の提案
- 高エネルギー物質による高性能化
- 非デブリ化
亜酸化窒素の分解メカニズムの解明
- 自己発熱分解特性の評価
- 触媒効果